東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)59号 判決
一 請求原因事実中、被告が実用新案権者である本件考案について、原告の登録無効審判の請求から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、考案の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 ところで、本件考案の構成要件(B)、(C)が出願前公知であつたことは、被告の自白する((B))か、明らかに争わない((C))ところであり、本件の争点は、構成要件(A)が、原告の主張するように、第一引用例の技術的思想に包含されるか否かに係つているので、これについて検討する。
1 本件考案の構成要件(A)について
当事者間に争いのない本件考案の要旨、特に、そのうち「ハンドル挿入孔2とその上部にあけた押釦用孔4」、「上記両孔間に穿つた溝9」、「突出部10と………を設けた押釦12を押釦用孔4と溝9に挿入し」及び「円弧突出部15と………を上部に設けたハンドル19をフレーム1のハンドル挿入孔2に挿入し」との各文言に、成立に争いのない甲第八号証(本件考案の実用新案公報)によつて認められる明細書の考案の詳細な説明の項及び図面(〔編註〕省略)の各記載をあわせて考えると、本件考案の構成要件(A)は、少なくとも次の四点、すなわち、
(イ) ハンドル挿入孔2と押釦用孔4とは、互いに離隔した別個の孔であること、
(ロ) 右両孔間に溝9が穿たれること、
(ハ) 押釦12とハンドル19がそれぞれ別個に押釦用孔4とハンドル挿入孔2に挿入されること、
(ニ) 押釦の突出部10とハンドルの円弧突出部15がともに溝9に嵌合した状態で互いに当接することを不可決の要素とするものであること、これにより、押釦12を指先で押すと、その突出部10がハンドル19の上端にある円弧突出部15を押圧し、ハンドル19をハンドル挿入孔2から外方に枢軸20を支軸としてレバー式に回動させる作用があること、さらに、押釦式にハンドルを操作するので、ハンドル起動時に容易に押圧点を見定めることができるとともに、突出部10と円弧突出部15とが溝9に嵌合して案内されるため、押釦12とハンドル19が互いに独立しているにもかかわらず、その相互の作用が確実になるという効果があることが認められる。
なお、被告は、押釦用孔4が「上部の肉厚部」に、溝9が両孔間の「隔壁裏面」にそれぞれ設けられる旨主張するが、本件考案において、押釦用孔4及び溝9の各設置場所をそのように限定して解しなければならない根拠はない。他面、原告は、ハンドル挿入孔2から押釦用孔4が独立していることが不可欠の要素ではないと主張するが、前掲考案の要旨において、押釦用孔4とハンドル挿入孔2とが上下に位置し、かつ、その間に溝9が存在することが明示されている以上、右両孔を互いに離隔した別個の孔と解するのが当然であつて、原告の右主張は採用することができない。
2 第一引用例の装置について
第一引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは、原告の認めるところであり、これと成立に争いのない甲第一号証(第一引用例)によると、第一引用例の装置においては、プツシユパツド47を押すと、その傾斜面52がこれに当接する操作レバー24の傾斜面42を押圧し、その押圧により、操作レバー42がフレーム10の凹部26から外方に回動するという作用が行なわれることが認められる。
3 両者の対比について
第一引用例の装置と本件考案の構成要件(A)とを対比するに、まず、機能上、第一引用例のプツシユパツド47、その傾斜面52、操作レバー24及びその傾斜面42がそれぞれ本件考案の押釦12、その突出部10、ハンドル19及びその円弧突出部15に対応する関係にあることは明らかである。しかし、前掲甲第一号証によると、第一引用例の装置は、(イ)´ 操作レバー24を収容する凹部26とプツシユパツド47を収容する空所(凹部26の左端部分)とが一体的な長孔をしており、(ロ)´ 両者の間には溝その他これらを区分、連絡すべき部材が存せず、(ハ)´ プツシユパツド47と操作レバー24(その部分41)が右長孔内において枢軸31で連結され、(ニ)´ プツシユパツドの傾斜面52と操作レバーの傾斜面42とが溝に嵌合する状態では当接していないものであることが認められるから、これと、本件考案の構成要件(A)について先に判示した(イ)ないし(ニ)の各要素を対照すると、そのいずれの点においても構成が相違するものといわざるをえない。
原告は、第一引用例の凹部26は、本件考案のハンドル挿入孔2、押釦用孔4及び溝6を包含するものであつて、凹部26に部分的名称を付するか否かは単なる表現方法の問題である旨主張するが、本件考案の右各部材は、少なくともその形状、構造上及び機能上相互に明確に区別されるものであるから、これらをもつて単なる表現方法の問題であるとすることはできない。
また、原告は、本件考案における、ハンドル起動時の押圧点の顕著性及び押釦とハンドルの相互作用の確実性という効果は第一引用例においても収めうる旨主張する。しかし、前者の効果については、本件考案における、ハンドルとは別体の押釦式の方が、第一引用例の連結したプツシユパツド47と操作レバー24の場合よりは、識別性において優るものがあると考えられる。また、後者の効果については、第一引用例のプツシユパツド47と操作レバー24は、前記のように枢軸31で連結されているうえ、原告の主張に従えば、凹部26の対向する二つの内壁面を構成するフランジ32、33によつて、プツシユパツドのヨークアーム48、49と操作レバー24が案内されるため、それらが正確に作用するというのであるから、押釦12とハンドル19が別個でありながら、両者の突出部10、15を溝9で案内することにより相互の作用を確実にするという本件考案の効果とは、その効果を収めるための具体的手段が明らかに異なるから、仮にその効果において同等なものがあるとしても、その構成上の相違をもつて単なる設計的事項とすることはできない。
4 以上のとおりであつて、第一引用例の装置は、本件考案の構成要件(A)との間に、少なくとも前掲(イ)ないし(ニ)に関する構成において相違するものがあり、その相違点の構成が単なる設計変更の範囲内のものであることを認めるに足りる証拠もないから、原告主張の取消事由中少なくともこれに関する部分(請求原因四、2、(一)のうち(3)、(6)、(8)及び(12)は、いずれも採用することができない。
そうすると、結局、本件考案の構成要件(A)は、これについて引用された唯一の刊行物である第一引用例の技術的思想には包含されないことになるから、他の構成要件についてその余の引用例に論及するまでもなく、原告の主張はこれを採用することができず、これと同趣旨の審決の判断は正当であつて、審決の結論に原告主張の違法があるということはできない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本件考案の要旨は左のとおりである。
(A) ハンドル挿入孔2とその上部にあけた押釦用孔4と上記両孔間に穿つた溝9とハンドル受部7を設けた取付枠板8とからなるフレーム1を設け、突出部10とバネ受孔11を設けた押釦12を上記押釦用孔4と溝9に挿入して、フレーム1の上部裏面に固定した二叉板13とバネ受孔11との間にバネ14を介入し、円弧突出部15と斜上向きの突出子16と取付部17を上部に設けたハンドル19をフレーム1のハンドル挿入孔2に挿入して取付枠板8に枢軸20をもつて回動自在に架し、
(B) ハンドル19の取付部17にバネ21を内装した二叉円筒22の上端を枢着して、その円筒の二叉部内に挿通した軸23を取付枠板8に架着してバネ21を受け、
(C) 鎖錠用の回動板25を二叉板13に枢着して、その孔24にハンドル19の突出子16を係合した
(D) 押釦式鎖錠装置付飛出しハンドルの構造。